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『あとがき』

  本書は、三部で構成し、第一部では「本能と理性」の正しい認識を得

る為に、大脳生理学をはじめ、現代科学の所見に照らしながら、誤った

本能と理性に関する二律背反的な認識を正し、理性の理性たる所以の正

しい思惟(思考)をする為の教示に努めました。


 第二部では、その正しい思惟の実践の為に仏教を採り入れ、真理真実

へ至る道を求める正しい方向を指し示す為、敢えて一般的に難解とされ

る龍樹の著作である『中論』を解説しています。浅学菲才な小生の理解

による為、誤ったものもあるかと思いますが、仏教の権威である学者の

解説を採り入れながら、極力誤った私見を挟まないように努力した積り

です。何分拙い文章力の上、かなり煩雑な構成になってしまいましたが、

どうかご容赦ください。


 そして第三部では『中論』の真理へ至る道として説かれている「四諦

八正道」の実践を、原始経典に基づいて現代に即応した「正しい生活実

践」の要項と「正定(禅定)」の修習法として体系化したものを詳細に

解説し、煩悩からの離脱と真理への道を得る方法を示しています。これ

は在俗にあっても実践可能な仏教の修行法としてのスタンダードとなる

ものです。


 第二部では、やはり難解な『中論』だけあって、内容も読み辛く、ま

た理解し難い面もあると思いますが、全体を通してかなりその真意は伝

えられたものと確信しています。

従来の一般向けの易しい仏教的書物では、うわべの教え(道徳的実践)

のみになり、肝要な「空」の真理そのものは避けて説き明かされていな

いものです。これを避けては釈尊の真意や仏教の根本を語ることはでき

ないと思います。


 「中論」の思想は仏教に縁しない人には、やはり難解であると思いま

すが、しかし、どうしても避け難い真理であることには違いないもので

す。一つ一つは難解であっても、時間を掛けてでも理解していくことが、

真に正しい思考や実践ができるものであると、ご理解いただければ嬉し

い限りです。

 われわれはとかく易きに流されやすいものです。簡単で安易な事柄は、

一見受け容れ易く思えますが、それは反面軽視しがちであって実行し難

く、かえって身に付かないものです。

 たとえば、エチケットといわれる公衆道徳なんかは、完全に実践でき

る人はいるでしょうか。それも人の目に触れないところにおいて・・・。


 このように世の中の事柄は、易しいことほど難しいという側面があり

ます。逆に、難しい事柄は、端から避けようとするから実行困難に思え

ますが、実際にぶち当たってみれば、案外そうではなかったという体験

は誰しも実感しているはずです。このことはものごとが難解であれば真

剣に取り組みもし、身を以って当たる故に道は開けるものであるという

こと、そしてその体験は簡単に忘れ難いものとなり、血となり肉となる

ものであることを示しています。


 要するに、ことに当たっての「先入観」や「常識」を外してみること

です。

 『われわれは、とかく枠にはまった考え方、生き方をしているのであ

って、これまでに学んだ知識、経験がすべてであるかのように思ってい

ます。それらの小さな枠に固執して「ああでもない」「こうでもない」

と思い悩んでいます。

 それら一切の枠を外し「もの・こと」を見れば、そこには新しい世界、

真実の世界が開けてくるものです。このことを仏教は教えています』

 真理真実を観る場合、執見(固執した考え方)という色眼鏡で「もの・

こと」を見れば、それはもう既に真理・真実ではなくなっています。一

切の見解を外した純粋無垢な心眼で「もの・こと」を見ることが、「あ

りのまま」を観ることであり、それがその侭真理真実の相(すがた)な

のです。


 仏教の根本的な意義は、自己救済の実践にあります。その為に様々

な教えが説かれていますが、突き詰めると「空」の教え、つまり「中道」

の実践ということになります。その理論と実践の書が龍樹の『中論』と

いうことになります。

 難解ではありますが、真理真実の素晴らしさを求める方は、少しずつ

でも読んでご理解いただき、一つでも実践できるよう努めていただけれ

ばと思います。また、本書がその為の些かなお役に立てることができま

したら、著者としては喜ばしい限りです。

 かく言う私も、一介の凡人です。煩悩も迷いもあります。しかし、本

書を上梓した限りは、さらなる精進を心掛け、より正しい実践ができる

よう努めていく覚悟でいます。

                            ―2006.3.24著者記す―

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