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1−15 『空の原理』

理性:「空」とは「般若心経」にある色即是空の空なのですね。これが

  最近いろんなところで書かれたり、言われたりしているのは知って

  いるのですが、なかなか難しく、また理解できるようなものに出逢

  えないでいました。解りやすく説明してもらえないでしょうか。


本能:「空」は体得してこそ、その意義(「悟り」)がでるものなのです

  が、理屈として知ることも大切です。正しい認識は正しい行動を生

  むはずですから、間違いのないよう説明を試みてみます。


   「空」は仏教の根本真理です。良くご存知の『般若心経』に書か

  れている、「色即是空」「空即是色」の「空」です。言葉としては良

  く使われ認識されているこの「空」も、その意味を正しく理解され

  ている方は意外に少ないようです。仏教者といえども実践となる

  とかなり怪しい?と思われます。

   この「空」の真理さえ理解できれば仏教は観えたも同然なのです

  が、そう簡単なものではありません。また簡単に説明しきれるもの

  でもありません。しかし、少しでも事前にご理解頂く為に敢えて試

  みてみます。


  ※ 仏教では次の三つの根本真理を説きます。

    『すべてのものは、それ自体で生じることなく、滅することもな

   く(「縁起」)、すべてのものは常住でなく、断滅でなく、たえず移

   り変わるものであり(「諸行無常」)、それらは実体のないもので

   ある(「諸法無我」)』


  ※物理学における根本法則である『熱力学の法則』は、次のよう

  に説明されています。

    『すべてのものは、それ自体で創成されることも、生滅すること

   もなく、その形態が変化するのみであり、すべてのものは常に死

   (熱死)に向かう』


   上記の仏教と科学の根本真理を比較してみますと、明らかに符合

  することがわかりますね。二千五百年前、未だ科学のない時代に、

  「釈尊」は宇宙の根本原理を見抜いていたのです。これは当に驚愕

  すべきことです。それも、瞑想によって悟りとして体得していたの

  です。この瞑想による真理の体得は、われわれに勇気と希望を与え

  るものではないでしょうか。


   三つの真理の根本は「空(縁起)」です。そこからあと二つの真理

  は導き出されるのです。もう少し解りやすく解説しましょう。


  ※「諸々の事物ないし事象は、それぞれ独立・固定したものではな

  く、互いに相依相関しあって成り立ち、また変化する」


   言い換えますと、すべての事象(もの・こと)の成り立ちのあり

  方を説明するものです。そのあり方は「相依性(そうえしょう)」

  であるというものです。つまり、「もの・ことは、すべて相依って

  成り立っており、一つとして単独で存在することはない」というこ

  とを説明しているのです。


   具体例として「光と陰」を見てみましょう。

   光は陰に依ってその存在が認められますし、又、陰は光に依って

  その存在があります。この光と陰は、どちらか一方だけでは成り立

  たないことはご理解いただけると思います。このように双方が相依

  って成り立つことを「空」といい、宇宙のすべてに妥当するとされて

  います。

   これと同様に、「男と女」「美と醜」「愛と憎しみ」「苦と楽」、更に「善

  と悪」というような、ものに限らず言葉や概念までも、すべて二者相

  対として相依って成り立っているのがわれわれの住む世界(宇宙)

  なのです。


   ここで、相対する事柄の一方を否定し、排除すればどうなるかを

  見てみましょう。


    「空」とは、相依って成り立つことである、といいました。

   例えば、「光と陰」の関係を見てみましょう。光が陰を創り出し、

  陰が光の存在を成り立たせています。これは理解できるでしょう。

   ところで、仮に「陰」を否定し排除したとします。どうなるでしょう。

  「光」は存在できるでしょうか?陰は光によって創られるものだか

  ら、陰がなくても光は存在できるはずである。果たしてそうなるで

  しょうか。

   光だけの世界があると仮定します。すべてが光であれば、どのよ

  うにして光を認識できるのでしょう。どこからが光であり、どこからが

  光ではないのでしょうか?その区別はできるのでしょうか?

   これは決してできません。陰があるから、反射があるから、光の存

  在が解るのです。陰を排除すれば、結果として光も存在し得なくな

  ります。


   男と女についても、同じ理屈になります。(少しくどい!)

   先ず、人間(生物)としての男と女の場合を考えましょう。

   男だけの世界があると仮定して、また、両性具有でないものとし

  て存在するとします。

   さて、暫くは男だけで存在できるでしょうが、百年も存在できない

  でしょう。これは明らかですね。

   次に、同じように男だけの世界があると仮定して、概念としての男

  と女を考えてみます。男だけの世界では、男という概念は必要あり

  ません。まして、女という概念すら生まれてこないということになりま

  す。女がいて、はじめて男としての概念が生まれ、生物学的にも子

  供が生まれ、そして人類が生存できるのです。


   これと同じように、美と醜も、苦と楽も、善と悪も、一方を否定すれ

  ば、必然的に他方も成り立ちません。これが「空」の論理です。論

  理というより、「もの・こと」の成り立ちの関係性(相依性)であり、こ

  れこそ宇宙の根本の真理そのものなのです。


   仏教では、次の様に説かれています。このことが「空の実践」と

  いうことになります。

   『世の中すべてが相依性の関係で成り立っており、故に相対する

  事柄について是非や善悪を争うことは無益であり苦しみの根本とな

  る。この真理を正しく明らかに観て、固執せず「中道」を歩みなさい。

  そうすれば悩むこともなく心は平安である』


   この相対する世界にあって、より正しい思惟を為すには相対思考

  にのみ頼っていては対立を超克することはできません。そこで絶対

  的な観点に立ち、相対する事柄や対立を超克することが必要なので

  す。それが仏教の開祖「釈尊」の説かれた教え、「空」即ち「中道」

  の実践なのです。これこそ相対の世界に於いて、「相対」を真に活

  かし得る「絶対」の道なのです。

   〔中道:相対の二辺を明らかに見て、その両極に偏らずに相対を

   超克する生き方をいう〕


  ●『空義有るを以っての故に 一切法は成ずることを得

   若し空義無ければ 一切は即ち成ぜず』

   「空の成立する人には一切が成立し、空の成立しない人には一切

   が成立しない」(「中論」24・14 三枝充悳 レグルス文庫)


   苦しみの原因は、ものごとに執着することによって起きるものだか

  ら、この真理(空)を正しく観て、執らわれの心を無くして生きることを

  教えられているのです。

   しかしながら、この理屈を理解したからといってそのまま実践でき

  るものでもありません。弛まない水の流れるような実践こそ重要で

  あり、また至難な問題なのです。でも諦めてはいけません。些細な

  ことでも前向きに実践することで確実に目的地に近づくはずですか

  ら。

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